お薦めの本

「彼の手は語り継ぐ」 パトリシア・ポラッコ作

  絵本ですが、小学校高学年から、というところでしょうか。

  南北戦争に従軍した少年兵、セイは、負傷して戦場に置き去りにされていたところを、同じ北軍の黒人少年兵、ピンクに助けられ、彼のうちに連れて行かれます。ピンクを待っていたお母さんの看病を受け、セイは元気を取り戻しますが、そこへ南軍の兵士たちがやってきます。

  「え~~~っ!こんな事になっちゃうの?」という結末でしたが、実話なので仕方が無いんですね。歴史にはこんなことも繰り返されてきたのだと、子どもたちにも伝えなければいけないと思います。

  最後に明らかになったのは、これが実際にあった話だということです。セイは、生きて帰って家族にこの話をし、それは子孫に語り伝えられ、著者もそれを聞いたのです。

 

 同じ頃、中学校の図書館に新しく入った「ルアンダ大虐殺」という本を読みました。ずっと仲良く暮らしてきた近所の人が、いきなり殺戮者に変わった。それは、ベルギーがこの国を植民地にし、王族だったツチ族を退けて、フツ族を支配階級に据えた事をきっかけに始まります。最初に起こるのは差別化、それがすべての始まりです。数年前にアウシュビッツの記録、「夜と霧」を読みましたが、この本で語られる出来事は、さらに凄まじいものでした。よく最後まで読み終えた、と自分をほめてやりたい、レベルだったのです。幼いころに親族何十人もが犠牲になり、一人生き残った青年の写真が頭を離れません。

 

 平和の礎となるのは、結局一人ひとりのつながりなのだ、と、ピンクとセイの話は教えてくれます。

 子供たちにこの本を紹介する、大人にも是非読んで欲しい絵本です。

「チキン・サンデー」 パトリシア・ポラッコ作

  トリシャ(ポラッコ自身です)はある日、近所に住んでいる友達と兄弟になる誓いを立てます。トリシャのうちは違う宗派に属していたのですが、日曜日にはよく、この兄弟と、二人のおばあちゃんと一緒にバプテスト教会に行き、おばあちゃんが歌う讃美歌を聞き、二人のうちで一緒におばあちゃんが料理してくれたチキンを食べるのでした。

  トリシャと兄弟たちは、おばあちゃんが教会の帰り道でうっとりと眺める美しい帽子をおばあちゃんに贈りたいと思い、お金を稼ぐために帽子やさんにお店の掃除に使ってくれるように頼もうとします。ところが、帽子やさんにいたずらを仕掛けた子どもたちが逃げ去ったところへ3人が現れたため、帽子やさんに犯人と誤解されてしまいます。・・・3人は心を尽くして帽子やさんに事情を説明し、思わぬ方法で帽子を手に入れ、おばあちゃんにプレゼントすることができたのでした。

  トリシャは、ロシア系のアメリカ人、兄弟たちは黒人、帽子やさんはユダヤ人、それでも、彼らの心は溶けあい、そこには人種や肌の色の違いによる垣根はありません。最初この本を読んだ時、それがとても不思議でした。

  南北戦争の時代と比べれば、人種差別は少なくなり、目につきにくくなっているかもしれませんが、統計によれば、犯罪被害者が白人であるか、有色人種であるかによって、刑の軽重が明らかに違う、といいます。何故トリシャには、こうした差別意識が無いのか、「彼の手は語り継ぐ」を読んだ時、理由がわかった気がしました。ピンクは、止むにやまれぬ気持から、セイを助けた、この二人に芽生えた友情をセイがずっと語り続けたからです。